AV女優への2次使用料支払い始まる リスト公開に「ダメでしょ」の声も

過去に出演したアダルトビデオ(AV)が再編集されたら、その報酬を出演者に――。AV改革のため、第三者機関「AV人権倫理機構」が提案し、2018年から順次運用が適用された新ルールの目玉の一つともいえるAV女優への2次使用料の支払いが始まっている。プロダクションは通さず、同機構の外局団体「AVAN」から直接女優に支払われる。支払いを歓迎する声がある一方で、本人確認に手間取り支払いに時間がかかったり、未払い女優のリストが誰でも閲覧できるウェブサイトに公開されたことへの反発があったりと、課題山積だ。

 

女優の出演作品はこれまで、総集編やオムニバス版が発売されても報酬を受け取ることができなかった。新ルールでは、再編集されれば2次使用料が支払われることになった。対象となるのは、2018年1月以降で、発売前の審査を受けた再編集版の作品で、18年末から女優への支払いが順次始まった。「女優に全額を支払いたい」という狙いから、AVANからプロダクションなどを介さず直接支払われるという。

AVANはAV人権倫理機構の外局団体に

 AVANは、だまされてAVに出演させられる強要問題が表面化した16年、出演者の権利を守ろうと元女優の川奈まり子さんが設立した。新ルール適用に伴い、AVANが契約書の管理や2次使用料の支払いを担うことが決まったが、要員不足で業務を行うことが困難となり、川奈さんら設立時のメンバーは辞任し、19年6月にAV人権倫理機構の外局団体として再スタートを切った。

 “新生”AVANは、女優が契約の際にサインする契約書と重要事項説明書、意思確認書の管理、2次使用料の支払い、相談窓口の運営という実務に専念する。「制度化されれば、プロダクションの協力が得やすくなる」と担当者は説明する。

対象は18年以降に「審査を受けた作品」

 2次使用料の支払い対象となるのはAV人権倫理機構のルールに従って発売される「適正AV」。18年1月以降に審査団体「日本コンテンツ審査センター」の審査を受けた総集編やオムニバス作品。「適正AV」は発売前に必ず審査を受けるため、すべての作品が審査センターを経由することになる。すでに引退した女優の古い作品であっても、18年1月以降に審査に出されたものなら対象となる。

 メーカーが審査料と、作品の本編時間に応じた2次使用料を支払う。2時間、3時間と作品時間が長くなればなるほど2次使用料は高くなる。オムニバスは複数の女優が出演しているため、出演した人数で割った金額が女優に支払われる。使用料は半期ごとに集計し、支払いが9000円に満たない場合は積み立てられ、9000円を超えた時点で支払われる。「振り込みで記録が残ると困る。現金で支払ってほしい」という場合は、手渡しすることも可能だ。使用料はフリーランスの女優にも支払われる。

「苦肉の策で」女優リスト公開に批判も

 課題もある。対象となっていながら2次使用料が払われていない「未払い女優」は、6月末現在で900人を超えた。プロダクションに「支払い対象となっている女優がいる」とリストを渡して本人確認を依頼しても返事がなかったり、引退女優の本人確認のために当時のプロダクションに連絡する必要があったりと、対応に時間がかかっていることが原因だという。

 対象となっている女優が自分で検索ができるようにと、AVANは6月に「未払い女優」のリストをウェブサイトに公開。担当者は「芸名なら個人(のプライバシー)に影響は出ないのではないか。2次使用料を女優に支払うための苦肉の策だった」と理由を話すが、抵抗感を覚える女優は少なくない。ある現役女優は「誰でもリストが見られるのはダメでしょう。名前を公に出してほしくない女優は『かかわりたくない』と思って申請しないのでは」と指摘する。

「載せてほしくない名前」どうする

 また、リストに載せる名前が「今、出していい名前なのかどうか」という問題もある。審査センターを経由して、AVANには2次使用料の支払い対象となった作品に登録されている女優名が通達される。しかし、当時の名前のみが通達されるため、現在は異なる芸名で活動している可能性がある。リスト公開後、過去に本名に近い名前で出演したことのある女優の当時の名前がリストに載っていたことが発覚。現在は違う芸名のため、削除された例もあった。「申請された名前が本名か芸名かをAVANでは確認できない。すぐに削除するので連絡してほしい」と担当者は言う。

 どの作品が対象となるのか、どのように支払われるのか、広報が行き届いていないために、引退した女優からは「自分の作品が対象になるのかがわからない」「リストに載っているが、どのように受け取ればいいのか」という疑問の声も上がる。スムーズに支払われるようになるまでに「3~5年はかかるのでは。一つ一つ対処していきたい」と担当者は話す。

 難航する2次使用料の支払いだが、本人確認や使用料の手渡しで女優と会う機会が増え、「不満や問題点などを直接聞けるようになった」と担当者。「女優は、人権倫理機構やAVANに対して距離を感じていると思う。1対1で話すことで、信頼を築いていきたい」と話していた。